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資本論草稿にマルクスの苦闘を読む   大谷禎之介(法政大学名誉教授、国際マルクス・エンゲルス財団編集委員)著

資本論草稿にマルクスの苦闘を読む:『資本論』第2部第8稿全文とその関連資料を収録

『資本論』第2部第8稿全文とその関連資料を収録

マルクスは『資本論』の完結をめざして最後まで奮闘した。
それは新たな認識にふさわしい枠組みを獲得する道程だった。
『資本論』完結をめざしたマルクスの苦闘は第2部第8稿で終わった。ここで彼は、貨幣の運動を組み入れて、社会的総資本の拡大再生産過程をはじめて分析した。それは厳しい自己批判をも含む、再生産論への実り豊かな最後の挑戦だった。
本書は、著者の透徹した読解を付して、この草稿の全文を収録する。

  • A5判/上製/584頁
  • ISBN978-4-905261-39-1
  • 本体7000円+税
  • 初刷:2018年11月1日
  • 第2刷:2019年2月5日

著者の言葉

マルクスは、『資本論』第1巻の原稿を印刷所に渡した直後の1867年4月30日に、ジークフリート・マイアーへの手紙で、次のように述懐した。 「仕事のできるすべての瞬間を私の著作〔『資本論』第1巻〕を完成するために使わなければなりませんでした。この著作のために私は健康もこの世の幸福も家族も犠牲にしてきたのです。……もし人が牛のようなものでありたいと思えば、もちろん人類の苦しみなどには背を向けて自分のことだけ心配していることもできるでしょう。しかし私は、もし私の本を,少なくとも原稿のかたちででも、完全に仕上げないで倒れるようなら、ほんとうに自分を非実践的だと考えたでしょう。」(MEW 31, S. 542. 〔 〕は引用者による挿入。) 見られるように、このときマルクス自身が、自分は『資本論』第1巻を「完成するために、仕事のできるすべての瞬間を使って」きたし、「この著作のために私は健康もこの世の幸福も家族も犠牲にして」きたのだ、と考えており、『資本論』第1巻を「少なくとも原稿のかたちででも、完全に仕上げ」ることを、「人類の苦しみ」を和らげるための自分のなすべき「実践」と見なしていた。 14年後、『資本論』の最後の草稿となった第2部第8稿を擱筆してから半年以上も経つのに『資本論』の作業に戻ることができないでいた1881年12月7日に、彼は娘のジェニーに次のように書いた。 「『資本論第1巻』の新しい第3版が必要になった、というマイスナーの知らせをぼくはかえって不愉快に感じたぐらいだ。ぼくはじっさいぼくのすべての時間を―自分にそれができるともう一度感じたら―もっぱら第2巻の完成のために使いたいと思っていたのだ。」(MEW 35, S. 243.) すでに死期に近づきつつあった彼は、それにもかかわらずここでもまた、『資本論』の第2部と第3部を含めることにしていた「第2巻の完成のために」、「ぼくのすべての時間を使いたい」という強い願望を吐露している。 資本論』を「少なくとも原稿のかたちででも」完成させる作業は、彼にとって、これほどの重い意味をもつ、彼の生涯をかけての「実践」だったのである。 未刊行の第2巻を仕上げて『資本論』を完結させることは、このように、彼にとって生涯をかけた闘いであった。しかもそれは、長年にわたる準備作業を必要とし、繰り返して膨大な草稿を書きかえることを彼に強いた壮烈な闘いだったのであり、まさに苦闘であった。 いまわれわれが『資本論』の草稿を読むとき、われわれはじつはそのようなマルクスの闘っている姿を見ているのであり、彼の苦闘の軌跡を尋ねているのである。 本書は、『資本論』とその諸草稿に取り組んで、たどたどしい足取りながら、マルクスの闘いの跡を追い続けてきた一研究者の旅路の記録である。

本書のTには、彼が生前に自ら刊行することができた『資本論』第1部諸版と彼が遺した『資本論』諸草稿の全体のなかに、マルクスにとって『資本論』がもっていた意味を探った拙稿を収めた。ここには、マルクスが『資本論』をどのようなものと見ていたか、ということについての筆者の見方もまた顕わになっている。そうしたマルクスは、筆者の旅路での灯火であったし,現在の到達点での灯火でもある。

本書のUには、筆者が『資本論』第2部および第3部の諸草稿に取り組むなかで書き上げた、『資本論』成立史にかかわる拙稿を収めている。その先頭に第5章として、MEGA第II部門第11巻所収の『資本論』第2部第8稿とこの巻の付属資料に収められている第8稿についての諸資料との全訳を置いた。次の第6章には、『資本論』第2部の諸草稿および第3部草稿の、またそれらの内部の諸部分の執筆時期を考証的に探った拙稿を収めた。第7章に置いたのは、MEGA第II部門第11巻所収の『資本論』第2部諸草稿のなかでマルクスはどのように苦闘して、どのようなこと次々に明らかにしていったのか、ということについて筆者が得た知見を記した拙稿である。最後の第8章は第7章を補足する論稿である。

本書のVには、マルクスの苦闘の跡をたどる旅路で筆者がしばらく足を留めた宿場のなかから、忘れがたい印象を残したいくつかの地点を選び、当時それぞれのところで走り書きしたスケッチを収めた。

昨年2017年は『資本論』第1巻刊行150周年、そして今年2018年はマルクス生誕200周年であった。この記念すべき年にマルクスの主著『資本論』についての拙著を上梓できることを心から喜びたい。

目次

  • I 『資本論』に刻まれたマルクスの苦闘
  • II 『資本論』第2部・第3部の草稿を読む
  • III 探索の旅路で落穂を拾う

著者

大谷禎之介(おおたに・ていのすけ)

1934年,東京都に生まれる。
1957年,立教大学経済学部卒業,大学院経済学研究科に進む。
1962年,東洋大学経済学部助手。同専任講師,助教授を経て,
1974年から,法政大学経済学部教授。経済学博士(立教大学)。
1992年から,国際マルクス=エンゲルス財団編集委員。
1998年-2015年,同財団日本MEGA編集委員会代表。
2005年から,法政大学名誉教授。

著訳書